M&Aやグループ内再編において、適格合併による繰越欠損金の引継ぎは、ストラクチャー検討上の重要な論点のひとつとなります。

一方で、形式的に適格要件を充足していたとしても、税務上は、組織再編成に係る包括的な否認規定である法人税法132条の2(組織再編成に係る行為計算否認)の適用リスクを検討する必要があります。

この規定の適用が司法の場で争われた主要な事件としては、これまでヤフー事件、IDCF事件、TPR事件の3件があり、いずれも国側が勝訴してきました。

このような中、いわゆるPGM事件(東京地裁令和6年9月27日判決、東京高裁令和7年7月23日判決)は、法132条の2を適用した更正処分が初めて裁判所によって取り消された事案であり、実務に極めて大きな影響を与える判決となっています。

PGM事件の詳細にまとめている記事は多数あるため、本記事では取引の内容地裁・高裁それぞれの判断実務上のポイントなるべく簡潔に整理しています。

PGM事件のポイント
  1. 法132条の2の適用を巡り、初めて納税者が勝訴した事案(地裁・高裁とも納税者勝訴、国は上告)
  2. 完全支配関係の適格合併について「事業の移転・継続」は不当性要件の判断で特に重視すべき要素ではないと判断(TPR事件高裁判決と事実上異なる解釈)
  3. 税負担の減少目的と事業目的のいずれが重いかを単純に比較する判断手法を明確に否定

PGM事件における取引の概要

本件は、ゴルフ場運営大手PGMグループにおけるグループ内合併を通じた繰越欠損金の引継ぎが問題となった事案です。

取引の流れを4つのステップに分けて整理します。

買収(2009年)

PGMグループのPGP社は、2009年、大手商社からゴルフ場運営会社PGPAH6の全株式を取得しました。

PGP社は当初、ゴルフ場事業のみの譲受けを商社に申し入れたものの受け入れられず、やむなく株式取得となった経緯があったそうです。

事業の切離しおよび株式譲渡(2009年~2010年)

PGPAH6では旧代表取締役による横領事件が発生しており、これに関連する損害賠償債務等の簿外債務が存在するリスクを抱えていました。

そこで、債権者によるゴルフ場事業の差押えを防ぐため、PGPAH6はゴルフ場事業を吸収分割により100%子会社(PGP千葉)に承継させ、PGPAH6自身は簿外債務の管理・債権者対応のために存続することとなりました。

その後、PGPAH6は、分割対価として取得したPGP千葉株式をグループ会社(PGMP1)に譲渡しました。

この株式譲渡により、税務上、約57億円の株式譲渡損失が発生し、これがPGPAH6の未処理欠損金額(繰越欠損金)の大半を占めることとなりました。

この欠損金の大半は、PGPAH6が商社の子会社であった時代に有していた固定資産等の含み損に起因するものです。

また、その後のグループ内再編により、切り離されたゴルフ場事業は最終的に総武カントリークラブ社(本件の納税者であるPGMプロパティーズの完全子会社)に承継されています。

なお、2013年12月以降は簿外債務の債権者と称する者からの連絡が途絶え、PGPAH6は実質的な休眠状態となっていました。

完全支配関係の構築(2015年)

2015年10月、グループ会社PGMP4は、外部株主が保有していた同社の優先株式を取得・消却し、これによりPGP社はPGMP4株式を100%保有することとなりました。

この優先株式の取得・消却には、グループのシンジケートローン契約における「連結子会社の議決権100%維持」というコベナンツ条項への抵触リスク(優先株式の普通株式への転換権が2015年10月以降に発生)に対処するという事業上の背景がありました。

この時点で、PGPAH6とPGMP4はいずれもPGP社の完全子会社となり、両社の間に完全支配関係が成立しています。

本件各合併 ― 同日2段階の適格合併(2017年)

そして2017年、同一日に次の2段階の合併が実行されました。

1段階目として、PGMP4を合併法人、PGPAH6を被合併法人とする完全支配関係の適格合併(本件合併1)が行われました。

2段階目として、本件合併1の効力発生を停止条件として、PGMプロパティーズを合併法人、PGMP4ほか3社を被合併法人とする支配関係の適格合併(本件合併2)が行われました。

この2段階の適格合併により、休眠状態であったPGPAH6の約57億円の繰越欠損金が、PGMP4を経由してPGMプロパティーズに引き継がれました。

課税当局による否認と争点

PGMプロパティーズは、法人税法57条2項等の規定に基づき、PGPAH6の繰越欠損金を自社の欠損金額とみなして確定申告を行いました。

これに対して課税当局は、法人税法132条の2を適用し、繰越欠損金の引継ぎを否認する更正処分等を行いました。

ここでポイントとなるのは、仮にPGPAH6とPGMプロパティーズが直接合併した場合には、両社は支配関係(50%超100%未満)にとどまるため、適格合併となるには事業継続要件・従業者引継要件の充足が必要となる一方、実質休眠状態のPGPAH6がこれらの要件を満たすことは困難であった、という点です。

課税当局は、間にPGMP4(完全支配関係)を挟む2段階の合併は、本来引き継げないはずの欠損金を引き継ぐための不自然な手順、いわば「適格作り」であると評価したものと考えられます。

したがって、本件の争点は、この2段階合併を含む一連の行為が、法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)に該当するか否か、という点になります。

なお、本件は国税不服審判所の裁決段階では納税者が敗訴しており、地裁で判断が逆転したという経緯があります。

東京地裁判決(令和6年9月27日)

東京地裁は、ヤフー事件最高裁判決(最判平成28年2月29日)が示した判断枠組み、すなわち、①通常は想定されない不自然な手順・方法か、②税負担の減少以外に合理的な理由となる事業目的等が存在するか、という考慮事情を前提としつつ、納税者の請求を認め、更正処分等を取り消しました(納税者勝訴)

判決のポイントは大きく次の3点に整理できると考えます。

完全支配関係の適格合併に「事業の移転・継続」を読み込むことを否定した点

TPR事件高裁判決(東京高裁令和元年12月11日)では、完全支配関係にある法人間の適格合併についても、被合併法人の事業の移転及び継続を要するとの解釈が示されていました。

これに対して本判決は、租税法律主義に照らし規定の文言を離れた解釈をすべきではなく、完全支配関係の適格合併には事業継続要件・従業者引継要件のいずれも法令上要求されていないこと、完全子会社を吸収合併した後にその事業を取り止める事案において課税実務上132条の2による否認が行われている形跡がないことなどから、事業の移転・継続がない完全支配関係適格合併への欠損金引継ぎ規定の適用が、その本来の趣旨・目的に反するとはいえないと判断しました。

税負担を最小化する選択肢を選ぶこと自体は否認事由にならないとした点

本判決は、合理的な事業目的のある組織再編成について、不自然性の認められない複数の手順・方法の中から最も税負担の少ないものを選択したとしても、直ちに濫用ということはできないと判示しています。

本件の事実関係に即して、合理的な事業目的の存在を丁寧に認定した点

PGPAH6を存続させれば管理コストが継続的に発生すること、買収した法人を合併により統合してコスト削減を図るというグループのビジネスモデルが一貫して存在していたこと、2段階合併という手法自体も実務上通常想定されないものではないことなどから、本件各合併には合理的な理由となる事業目的が十分に存在すると認定されています。

東京高裁判決(令和7年7月23日)

国側は控訴しましたが、東京高裁は令和7年7月23日、原判決を支持して控訴を棄却しました(納税者勝訴を維持)。

控訴審では、国側が判断枠組みに関する追加的な主張を展開しており、これに対する高裁の応答が実務上注目されます。

税目的と事業目的の「主従関係」比較の否定

国側は、税負担の減少目的とそれを除外した事業目的とを区別した上で、その主従関係を考慮すべきと主張しました。

これに対して高裁は、両者を区別すること自体は必要としつつも、税負担の減少目的が事業目的より少しでも重ければ不当性要件に該当すると解することはできないとし、いずれがより重視されていたかを単純に比較するような判断手法を明確に否定しました。

税目的と事業目的の「割合」や「軽重」がよく議論される実務において、非常に重要な判示と考えます。

事業の移転・継続の位置づけ

国側は控訴審においても、完全支配関係の適格合併を含め、事業の移転・継続を考慮すべき事情のひとつとして主張しました。

高裁は、事業の移転・継続状況が考慮される事例が全く想定されないわけではないとしつつも、完全支配関係の適格合併において事業の継続が一律に適用の前提とされていたとは認められないことなどから、事業の移転・継続は不当性要件の判断において「特に重視すべき要素」ということはできないと判断しました。

その他の主張への応答

このほか高裁は、合併時期・合併相手の選択(欠損金を生じさせたゴルフ場事業を営んできた法人への引継ぎであり不自然でないこと)、清算という選択肢を採らなかったこと、2段階合併という手法についても、いずれも合理性を欠くものではないとして国側の主張を退けています。

特に、国側の「グループのビジネスモデル自体が欠損金の繰越制度の趣旨に反する」との主張に対しては、企業再編税制の趣旨や欠損金の引継制度自体を事実上否定するに等しいとして、明確に排斥している点が印象的です。

実務上の留意点

PGM事件判決を踏まえて、実務上は次のような観点から検討する必要があると考えます。

・TPR事件判決との関係:本判決はTPR事件高裁判決と事実上異なる解釈を採用しており、下級審レベルで判断が分かれた状態にあります。国側は上告しており、最高裁の判断が示される可能性があるため、今後の動向を注視する必要があります。

・射程は慎重に読むべき:本件は、①一貫したビジネスモデルの存在、②欠損金の発生経緯に租税回避の意図がないこと、③完全支配関係の構築に独立した事業目的(コベナンツ対応)があったこと、など納税者に有利な事実が積み重なった事案です。休眠会社の欠損金引継ぎが一般的に容認されたと読むことは適切ではなく、当局は本件と事情が異なる事案には引き続き否認を検討する可能性が高いと考えられます。

・事業目的の同時代的な文書化:税負担の減少以外の事業目的(管理コストの削減、事務効率、契約上の制約への対応など)について、再編の検討過程において議事録・稟議等の形で記録を残しておくことが、否認リスクへの備えとして一層重要になると考えます。

まとめ

PGM事件は、組織再編成に係る行為計算否認規定(法人税法132条の2)の適用を巡り、初めて納税者が勝訴した事案として、極めて重要な意義を持つ判決です。

特に、完全支配関係の適格合併における事業の移転・継続の位置づけ、税目的と事業目的の単純な軽重比較の否定という判示は、グループ内再編のストラクチャー検討における実務の拠り所となり得るものです。

もっとも、本判決の結論は本件固有の事実関係に大きく依拠しており、繰越欠損金の引継ぎを含む組織再編を検討する際には、引き続き、事業目的の整理と文書化、選択したストラクチャーの合理性の説明可能性について、慎重に検討する必要があると考えます。

当事務所においては、多数のM&A案件における税務DDやストラクチャリング業務に従事してきた税理士が直接対応し、M&A・組織再編に関する税務を専門的な立場からサポートいたします。

組織再編税制や繰越欠損金の引継ぎ、行為計算否認リスクの検討など、M&A・組織再編に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

DD費用の法人税法上の取扱いの経緯_令和8年2月18日判決まで

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