最終更新日:2026年7月4日

令和8年度税制改正において、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」(以下「本特例」)が新たに創設されました。

本特例は、企業グループ内での親子会社間取引や兄弟会社間取引について、契約書や請求書等に対価の算定に必要な事項の記載がない場合、これを補完する書類の取得・作成・保存を義務付ける制度です。

一見すると単なる書類保存のルールに見えますが、保存義務に違反すると青色申告の承認取消事由に該当し得るという点で、実務への影響が極めて大きい改正となっています。

今回はこの新制度のポイントを整理しています。

2026年6月30日、本特例について、国税庁より事務運営指針「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例の運用に当たっての基本的な考え方及び取扱いについて」が公表されるとともに、法人税基本通達の改正(第17章第3節・17-3-1~17-3-11の新設が行われました。

求められる記載の程度、保存がない場合の取扱い、税務調査での運用などが明らかになっています。詳細は本文中「7.国税庁による事務運営指針・基本通達の公表」をご参照ください。

制度創設の背景

企業グループ内で行われる取引、特にシェアードコスト取引(研究開発、広告宣伝、システムの維持管理等の費用を関連会社間で配賦する取引)においては、取引価格の根拠が外部に対して明示されにくいという特徴があります。

実務上、グループ間取引は「請求書のみ」「一式表記のみ」となりやすく、税務調査において対価算定の根拠を確認できず、支払額の妥当性を検証できない事例が問題視されていました。

このような背景から、課税関係の適正化を図るため、関連者間取引に関する一定の書類の整備・保存を義務付ける制度として本特例が導入されています

制度の概要

本特例の基本的な仕組みは次のとおりです。

内国法人が関連者との間で「特定取引」を行った場合において、注文書・契約書・請求書等の取引関連書類等に対価の額を算定するために必要な事項の記載・記録がないときは、その不足する事項を明らかにする書類(特定事項記載書類)を取得または作成して保存しなければなりません。

具体的に必要とされる事項は次のとおりです。

必要事項
  1. 取引に関する資産または役務の提供の明細
  2. 取引において支払うこととなる対価の額の計算の明細等

ここでのポイントは、第三者との比較における価格の妥当性まで証明することは求められていないという点です。

あくまで「どのようにその対価が算定されたか」が分かる状態にしておくことが本特例の趣旨となります。

単価などの取引条件や計算方法、役務提供の期間・時期などがわかるようにする必要があるものの、その妥当性に関する記載は求められないと考えます(記載は求められていないかもしれませんが、妥当性がなくてよいわけでは当然ないと考えます。そもそもの妥当性については別途管理しておく必要があると考えます)

対象法人

外国法人を除く内国法人が対象となります(青色申告を行う・行わないに関わらない。法規67の2)。

内国法人が対象のため、外国法人の日本支店は含まれない(法規62)。

関連者の範囲

本特例における「関連者」は、移転価格税制と同様の基準により判定されます。

具体的には次のような関係にある法人が該当します。

関連者
  • 発行済株式等の50%以上を直接または間接に保有する関係(親子関係)
  • 同一の者によって発行済株式等の50%以上を直接または間接に保有される法人相互の関係(兄弟関係)
  • 一方の法人が他方の法人を実質的に支配している関係(実質支配関係)
  • 上記が連鎖することで生じる関係

移転価格税制が「国外関連者」を対象とするのに対し、本特例は内国法人間の取引も含めて広く対象とする点に特徴があります。

対象となる特定取引

対象となる「特定取引」は、販売費・一般管理費その他の費用の額の基因となる取引のうち、次のものに限定されています。

なお、特定取引は、関連者が内国法人に対して行うものに限定されています。

①工業所有権等の譲渡または貸付け

  • 特許権、実用新案権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式等
  • 著作権(出版権・著作隣接権を含む)
  • プログラムの著作物

②一定の役務提供

  • 関連者の経営資源を活用して行う研究開発、広告宣伝等の事業活動
  • 関連者の専用資産を使用させる行為および当該資産の維持・管理
  • 経営の管理または指導、情報の提供等(関連者の知識経験に基づくもの)
ポイント
  • いわゆる経営指導料、マネジメントフィー、技術指導料、マーケティング支援、会計・税務・法務支援、システム維持・管理、ロイヤルティ、業務委託料といったグループ内で頻繁に発生する取引が広く対象
  • 一方、売上原価の起因になるものは対象外

違反した場合の影響

本特例で最も実務的に重要なのが、書類の保存義務に違反した場合の効果です。

特定事項記載書類が保存されていない場合、当該取引の支払額が直ちに損金不算入となるわけではありません。しかし、青色申告の承認取消事由に該当し得る点が極めて重大です。

青色申告の承認が取り消されると、白色申告法人として推計課税の対象となり、欠損金の繰越控除や各種特別償却・税額控除といった青色申告のメリットを失うことになります。

ポイント

単発の費用否認のリスクではなく、青色申告全体に影響が及ぶ点に本特例の本質的な怖さがある

なお、2026年6月30日に公表された事務運営指針において、承認取消しの運用に関する当局の考え方が示されています(詳細は後述「国税庁による事務運営指針・基本通達の公表」参照)。

保存等の有無のみで直ちに取消しとなるものではない一方、欠損金の繰越控除への影響という新たな留意点も明示されています。

国税庁による事務運営指針・基本通達の公表【2026年6月30日】

2026年(令和8年)6月30日、国税庁より、本特例の運用に関する事務運営指針が公表されるとともに、法人税基本通達の改正により、新たに第17章第3節「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」(基本通達17-3-1~17-3-11)が新設されました。

制度創設時点では、

「どの程度の記載があれば足りるのか」

「書類の保存がない場合、実際にどう扱われるのか」

「税務調査ではどのように運用されるのか」

といった点が必ずしも明確ではありませんでしたが、今回の公表により、当局の運用上の考え方が具体的に示されています。

以下、実務上特に重要と考えられるポイントを整理します。

今回の公表で明らかになった主なポイント
  • 保存等がなくても、直ちに損金不算入・青色申告の承認取消しとなるわけではない(段階的な運用)
  • 求められる記載は「第三者が客観的に把握できる程度」で足りる特定事項記載書類は「不足部分」のみでよく、複数書類の総合確認や反復継続取引の簡便対応も可能
  • 移転価格のローカルファイルで必要記載事項が確認できる場合、本特例は適用されない
  • 欠損金の繰越控除の保存要件にも関係する点が明示

保存等がなくても直ちに否認・取消しとなるわけではない

まず、実務上最も関心が高いと思われる、義務違反の効果に関する運用が明らかになっています。

事務運営指針では、特定事項記載書類の保存等は、関連者間取引に係る費用の損金算入の要件とはされていないことが明記されました。

そのため、仮に保存等が行われていない場合であっても、そのことのみをもって直ちに損金算入が認められないことになるものではなく、課税関係の判断は、帳簿書類その他の資料から取引の実態を把握したうえで、実態に即して行うこととされています。

また、青色申告の承認取消しについても、保存等の有無のみにより取消しの要否を決することは適切ではないとされ、次のような段階的な運用が示されています。

調査時の段階的な運用
  1. 調査担当者は、①取引区分(関連者間取引に該当する理由)、②特定事項の内容、③不足の程度を調査対象者に明示する
  2. そのうえで、合理的な期間を定め、特定事項記載書類の取得・作成・提示を求める
  3. 取消しの要否は、是正の可否等を把握したうえで、違反の程度その他の事情を踏まえて判断する
  4. 違反の程度が軽微である場合には、取消処分を行わず改善指導にとどめることができる

つまり、書類の不備が見つかれば直ちに承認取消しとなるのではなく、調査の過程で是正の機会が与えられる運用が予定されているといえます。

もっとも、留意すべき点として、取消処分がなされた後に、不服申立て等の段階で特定事項記載書類を提示したとしても、原処分の効力には影響しないことも明記されています。

是正の機会は「調査の段階」までであり、事後的な挽回はできないと考えます。

【重要】欠損金の繰越控除にも影響し得る

今回の指針で新たに明示された重要な留意点として、特定事項記載書類の保存等の状況は、欠損金の繰越控除の適用に係る帳簿書類の保存要件(法規26の3①)にも関係するとされた点が挙げられます。

具体的には、繰越控除の対象となる欠損金について、その欠損金が生じた事業年度に係る特定事項記載書類を含む帳簿書類の保存等が十分に行われていない場合には、繰越控除の適用を受けることができないことがあるとされています。

青色申告の承認取消しは「軽微なら改善指導」という柔軟な運用が示された一方で、多額の繰越欠損金を有する法人にとっては、欠損金発生年度の書類整備の不備が将来の繰越控除に影響し得るという、別ルートのリスクが明確になったといえます。

求められる記載の程度 :「第三者が客観的に把握できる程度」

記載の程度について、事務運営指針では、本特例は取引の内容および性質に照らして通常求められる範囲を超える詳細な資料の一律の保存を求める趣旨のものではないとされ、必要記載事項は、関連者間取引の内容を第三者の立場からみて客観的に把握することができる程度の記載が求められるものと整理されました。

一方で、対価の額が「一式」とされていたり、取引の内容が抽象的に表示されているのみである場合には、取引の実態を把握するに足りるものではないため、特定事項(その記載等がない事項)が生ずることとなる点が明示されています。

そのうえで、取引類型ごとに、次のような情報が示されています。

類型別に求められる情報の例
  • 工業所有権等の譲渡・貸付け:工業所有権等の内容・範囲・存続期間、事業における利用の内容、対価の額とその算定の基礎となる計算方法等
  • 費用分担等に係る事業活動:事業活動の内容・実施方法・場所・回数、内国法人が受ける利益の内容、負担費用の額の算出根拠となった計算方法等
  • 経営の管理・指導等:役務の具体的内容、提供の態様、頻度または期間、対価の額の計算方法等
  • その他の役務提供:役務提供の日時・場所・期間または回数、具体的内容、対価の額の内訳とその計算方法等

なお、基本通達では、役務提供の範囲についても例示が置かれています。

費用分担等に係る事業活動としては、グループ共通のブランド維持・向上を目的とする広告宣伝・販売促進・市場分析、研究開発活動、情報システムやデータベース・建物設備のグループ共通利用などが挙げられています(基通17-3-9)

経営の管理・指導等としては、事業計画の策定・業績管理・内部管理体制の整備に関する助言指導、人事・労務・法務・財務に関する専門的支援、事業運営に資する情報の定期的・組織的な提供などが挙げられています(基通17-3-10)

他方、株主としての地位に基づき行われる活動であって、対価の授受を予定していないもの(いわゆる株主活動)は、通常、対象となる役務提供には当たらないことも注記されており(基通17-3-10(注))、移転価格実務における整理と平仄のとれた取扱いといえます。

特定事項記載書類は「不足部分」だけでよい

基本通達では、実務負担の軽減につながる取扱いがいくつか示されています。

まず、特定事項記載書類は、取引関係書類に記載のない事項(特定事項)を明らかにするためのものであるため、関連者間取引の内容の全てを記載する必要はなく特定事項が明らかにされていれば足りるとされています。そもそも特定事項がない場合には、特定事項記載書類の取得・作成自体が不要です(基通17-3-6)。

また、必要記載事項が複数の取引関係書類に分かれて記載されている場合、それらを総合して確認できるのであれば特定事項はないものとされます(基通17-3-7)。

契約書・請求書・作業報告書などを組み合わせて必要記載事項をカバーできていれば、追加の書類作成は不要という整理です。

さらに、同一内容の貸付け・役務提供が反復継続して行われている場合、取引条件や役務内容に変更がないことが契約書等により確認できるときは、一の特定事項記載書類を作成・保存すれば足りるとされました(基通17-3-8)。

毎期のマネジメントフィーやロイヤルティなど、継続的なグループ内取引について、毎年度書類を作り直す必要はないことになります。

ローカルファイル・電子帳簿保存法との関係

移転価格税制への対応としてローカルファイルを作成している場合の取扱いも明確化されました。

必要記載事項とローカルファイルの記載事項には一定の対応関係が認められることから、ローカルファイルにおいて必要記載事項が客観的に把握できる程度に記載されている場合には、特定事項はないこととなり、本特例は適用されません

つまり、国外関連者との取引について移転価格文書化に対応済みであれば、本特例のために重複した書類を別途作成する必要はないということです。

国外関連取引と国内グループ取引とで、文書化の状況を切り分けて棚卸しすることが効率的な対応につながると考えます。

また、特定事項を電子取引により取得した場合には、電子帳簿保存法第7条に基づく電磁的記録の保存義務が別途課されるため、当該取引については本特例は適用されないことも確認されています。

税務調査における取扱い : 親会社等で一元保存している場合

グループ経営の実務では、契約書や算定根拠資料が親会社等において一元的に管理されているケースが少なくありません。

この点、指針では、保存義務を負う内国法人の納税地等における保存が原則としつつ、調査担当者の求めに応じて、関連者から必要な事項を遅滞なく入手し、提示することができると認められるときは、納税地等において保存等がなされているものとして取り扱うこととされました。

外資系企業の日本子会社などにおいては、本社側で保管されている資料「遅滞なく入手・提示できる体制」をあらかじめ整備しておくことが、実務上のポイントになると考えます。

この判断は、入手・提示に係る体制や要する期間等を踏まえて行われるとされているため、有事に慌てて本社に照会するのではなく、平時から資料の所在と入手ルートを明確にしておくことが重要です。

関連者判定の明確化

このほか、基本通達では関連者判定についても取扱いが示されています。

発行済株式や直接・間接保有株式には払込みが行われていない株式も含まれること、名義株は実際の権利者が所有するものとして判定することが明らかにされました(基通17-3-1、17-3-2)。

また、実質支配関係の判定における「その他これに類する事実」として、①一方の法人が他方の法人から提供される事業活動の基本となる著作権・工業所有権・ノウハウ等に依存して事業活動を行っていること、②一方の法人の役員の2分の1以上または代表権限を有する役員が他方の法人によって実質的に決定されていると認められる事実があること、が例示されています(基通17-3-3)。

株式保有割合が50%未満であっても、フランチャイズ的な関係やライセンス依存度の高い関係、役員派遣を通じた支配関係がある場合には関連者に該当し得るため、資本関係のみで関連者の範囲を判断しないよう留意が必要です。

適用時期と保存期間

本特例は令和8年4月1日以後に開始する事業年度において行う関連者間取引から適用されます。3月決算法人の場合、令和9年3月期が最初の本格対応年度となります。

保存期間は、事業年度終了の日の翌日から2か月を経過した日等を起算日として7年間とされています。

実務上の対応

本特例への対応として、企業グループにおいては次のステップでの準備が求められます。

ステップ1は、関連者の特定です。

グループ内の会社一覧より、本特例における関連者を特定する必要があります。特にグループ会社が多い場合や第三者を通じた取引を実施している場合など、みなし関連者も含めて特定する必要があります。

ステップ2は、対象取引の洗い出しです。

グループ内で行われている取引のうち、特定取引に該当するものを特定する必要があります。特にシェアードコスト取引、ロイヤルティ、経営指導料等は重点的に確認が必要です。

ステップ3は、現状の取引関連書類の点検です。

既存の契約書・請求書等に対価算定に必要な事項が網羅されているかを確認し、不足があれば補完書類を整備する必要があります。

ステップ4は、必要書類の作成および社内体制の整備です。

不足があれば保管書類を作成する必要がありますが、これには経理部門だけでなく、各事業部門・法務部門との連携のもと、書類の作成・保存に関する業務フローを整備する必要があります。

まとめ

本特例は、書類保存の義務付けという形を取りながらも、違反した場合に青色申告の承認取消という重い結果をもたらし得る制度となっています。

対象は大企業に限定されておらず、関連者間取引を行うすべての内国法人が対象となるため、中小企業を含めて広く対応が求められます。

特に、外国法人の日本子会社における海外関連法人との取引、M&Aにより取得された子会社との間の経営指導料、グループ再編後のシェアードサービス取引などにおいては、契約書や算定根拠資料の整備状況を改めて点検し、本特例の適用開始までに必要な対応を講じておくことが重要と考えます。

また、2026年6月30日に公表された事務運営指針・基本通達により、本特例は「直ちに否認・取消し」という運用ではなく、是正の機会を与える段階的な運用が予定されていることが明らかになりました。

もっとも、欠損金の繰越控除への影響が明示されるなど、書類整備の重要性自体はむしろ高まっているといえます。

ローカルファイルとの重複排除や反復継続取引の簡便対応など、効率的に対応できる余地も示されているため、自社グループの取引・文書化の状況を踏まえたメリハリのある対応を検討することが重要と考えます。

自社においてはどのような点に留意すべきか。実際にどのように対応すべきか等、本記事に関するお問い合わせなどあれば、お気軽にお問い合わせください。

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本記事は、あくまで一般的な取り扱いを記載しているものとなり、個人的な見解も含まれるため、個別の状況に応じて結論が異なる可能性があります。この記事に基づいて具体的な判断や行為を起こす前には、必ず税務専門家に相談する必要があると考えます。

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