M&Aにおいて税務デューデリジェンス(税務DD)は、過去の申告の税務リスクの洗い出しだけでなく、取引条件(価格調整・表明保証・補償条項)、買収ストラクチャー、クロージング後の再編取引や税務ガバナンスに影響し得るリスクを把握するための重要なプロセスです。
本稿は、実務で多数の税務DDに関与してきた中で、実際に論点となった事例を、個別の背景や取引詳細が特定されない範囲で抽象化したうえで紹介します。
なお、本稿で取り上げる論点について、「税務上の最終的な取り扱いがどのように整理されるべきか」といった詳細な検討や結論の提示は行っていません。
あくまで、税務DDの過程において「どのような論点が、どのような形でリスクとして認識されたのか」、また、それを踏まえて「税務DDを実施する際にどのような点に留意すべきか」という実務的な観点から整理している点にご留意ください。
税務デューデリジェンスの論点事例
- グループ会社内で、事業の一部をグループ内の別法人に事業譲渡で譲渡している
- 移転された事業は債務超過であり、譲渡対価を1円としている
- 譲り受けた法人は税務上ののれん(資産調整勘定)を認識している
- 申告書に必要な資産調整勘定の明細となる別表の添付がない

検出された税務論点
- 譲り受けた法人が認識した税務上ののれんの認識の妥当性(寄附金に該当する可能性)。
- 仮に認識できたとして、別表添付がないことを将来指摘されるリスクがあるのではないか。
※譲渡法人側の論点は割愛しています。
税務上の取扱いとリスク
本件はグループ内での債務超過事業の事業譲渡となっています。
債務超過における事業譲渡において、対価を1円とするケースは実務上よく見られますが、グループ内で実施した場合には、留意が必要と考えます。
一般的に、事業譲渡が行われた場合、受け入れた資産と負債の時価純資産価額を超える対価を支払った場合、その差額部分はのれん(資産調整勘定)として認識され、5年間で償却されることになります。

しかし、この場合の対価からは寄附金の額は除かれることになります。
債務超過の場合、その債務超過部分は時価として価値のあるものか、寄附金に相当するのではないかという論点が生じる可能性があると考えます。

仮に、第三者間の事業譲渡であれば、経済人同士の取引であり、当事者間で合意した金額として時価として認められるべきとも考えられます。
しかし、グループ内で行われ、その事業の収益性の有無などを分析していないといった状況であれば、本来の価値を超える部分の対価(債務超過相当分)は寄附金とみなされる可能性があると考えます。
本件では、特に移管された事業の収益性の分析などは実施されていないということだったため、寄附金と指摘されるリスクが論点として検出されました。
実務上の示唆
実務上、グループ内取引については、細かい検討が行われないまま実施されていることも少なくありません。
そのため、税務DDにおいては、取引背景やグループ全体の状況を踏まえて、当時の取引時にどのような検討が行われたのかなどを、慎重に分析することが論点のひとつといえます。
なお、本件の場合、グループ内取引であるため、受け手のみではなく、出し手における課税関係やグループ法人税制の影響等も考慮する必要があります。
税務DDでは、取得対象法人の位置づけや取引のスキームによって、グループ全体の税務リスクとして評価すべきか、あるいは特定の法人単体のリスクとして評価すべきかが変わり得ます。
例えば、受け手のみを買うのか、出し手のみを買うのか、両方を買うのかによって評価の視点を変えてリスクを検討する余地が生じ得ます。

そのため、税務デューデリジェンスにおいては、特定の法人の処理結果のみから結論を導くのではなく、取引当時の背景やグループ内での位置づけを踏まえたうえで、評価の範囲と視点を整理することが重要となります。
一般的な税務デューデリジェンスの流れや方法については、こちらで詳細を説明していますので、ご参考ください。
その他、税務デューデリジェンスの論点事例について、以下ご参照ください。
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本記事は、あくまで一般的な取り扱いを記載しているものとなり、個人的な見解も含まれるため、個別の状況に応じて結論が異なる可能性があります。この記事に基づいて具体的な判断や行為を起こす前には、必ず税務専門家に相談する必要があると考えます。
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