M&Aにおいて税務デューデリジェンス(税務DD)は、過去の申告の税務リスクの洗い出しだけでなく、取引条件(価格調整・表明保証・補償条項)、買収ストラクチャー、クロージング後の再編取引や税務ガバナンスに影響し得るリスクを把握するための重要なプロセスです。

本稿は、実務で多数の税務DDに関与してきた中で、実際に論点となった事例を、個別の背景や取引詳細が特定されない範囲で抽象化したうえで紹介します。

なお、本稿で取り上げる論点について、「税務上の最終的な取り扱いがどのように整理されるべきか」といった詳細な検討や結論の提示は行っていません

あくまで、税務DDの過程において「どのような論点が、どのような形でリスクとして認識されたのか」、また、それを踏まえて「税務DDを実施する際にどのような点に留意すべきか」という実務的な観点から整理している点にご留意ください。

税務デューデリジェンスの論点事例

事実関係
  • 対象会社は、グループ企業に所属する法人のひとつであり、他のグループ内法人からの出向者が役員となっている。
  • 出向先法人である対象会社は、その役員の給与や賞与相当の金額について、出向負担金として出向元法人であるグループ内法人に支払っている。
  • 対象会社は、出向負担金を税務上の損金の額として取り扱っている。

検出された税務論点

論点
  • 出向先法人である対象会社の株主総会等において、役員給与の上限額に関する決議等が行われていたが、出向期間や出向負担金に関する規定を定める出向契約書が締結されていなかった。

税務上の取扱いとリスク

グループ内企業において、出向者が役員となるケースは多く見られます。

役員給与は、恣意性の排除の観点で、税務上の損金の額として算入できるものは一定の要件を満たすものに限られています。

出向者が役員となっている場合、法人税基本通達においては、

①当該役員に係る給与負担金の額につき当該役員に対する給与として出向先法人の株主総会等で決議がされており、

②出向契約等において当該出向者に係る出向期間および給与負担金の額があらかじめ定められている場合に、

役員給与に係る規定が適用される、という考え方になっています。

本件では、出向契約において、これらの定めが行われておらず、通達に記載する要件を満たしていないものとなっている点が検出されています。

この場合、出向負担金として計上した金額が、出向先法人で損金の額に算入されない可能性もあると考えられます。

実務上の示唆

グループ企業では、出向により従業員や役員がグループ内の他の法人の従業員や役員になっているケースが多く見られます。

出向には様々な形式があり、法人間の事情、出向者の役割、関与状況、給与負担のルール(負担割合、負担範囲など)などによって、出向者に係る給与負担金の支払い方や負担状況は多様です。

そのため、法人税基本通達において、出向負担金の取扱いが用意されており、損金の額に算入するためには、これらの通達に基づいた設計や運用が求められています

特に役員給与については、損金算入できるものが法令で限定されており、出向者が役員になっている場合には、これらの規定のほか、通達上の出向負担金の取扱いも同時に満たすような設計・運用が求められることになります。

一方で、グループ内においては、形式面の整備などをしないまま、実務運用が先行しているケースが散見されます。

そのため、税務デューデリジェンスにおいては、形式的な要件を満たす運用が行われているかに留意する必要があると考えます。

これらを満たしていない場合、役員給与の損金性が否認される将来の指摘リスクになることが想定されます。

役員給与額が大きい場合、影響金額が一定程度大きくなる可能性があるため、早期の点検と是正手当てが実務上有効ですので、このような観点での税務デューデリジェンスが望ましいと考えます。

一般的な税務デューデリジェンスの流れや方法については、こちらで詳細を説明していますので、ご参考ください。

その他、税務デューデリジェンスの論点事例について、以下ご参照ください。

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本記事は、あくまで一般的な取り扱いを記載しているものとなり、個人的な見解も含まれるため、個別の状況に応じて結論が異なる可能性があります。この記事に基づいて具体的な判断や行為を起こす前には、必ず税務専門家に相談する必要があると考えます。

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